謎の高速電波バースト

高速電波バーストの想像図 (Credit: JINGCHUAN YU, BEIJING PLANETARIUM / NRAO)。

近年、高速電波バースト (Fast Radio Burst; FRB) と呼ばれる謎の天体現象が注目を集めています。 FRB はわずか数ミリ秒の間に起こる電波波長でのバースト現象です。 このバーストは遠くの宇宙からやってくる事がわかっていますが、その正体は全くの謎で、これまで約50種類にもおよぶ理論モデルが提唱されてきました。

私は FRB の明るさとバースト時間に正の相関関係があることを初めて発見しました (図1 左)。

図1: (左図) FRB の「明るさ-バースト時間」関係。(右図) 将来のFRB観測によって与えられる、ダークエネルギー時間変動 (wa) に対する制限。FRB によって wa 測定値の不定性が非常に小さくなる (マゼンタ等高線) と期待されます。
図1: (左図) FRB の「明るさ-バースト時間」関係。(右図) 将来のFRB観測によって与えられる、ダークエネルギー時間変動 (wa) に対する制限。FRB によって wa 測定値の不定性が非常に小さくなる (マゼンタ等高線) と期待されます。

FRB を説明する理論モデルのうち、この相関関係を再現できるものが最もらしいという事になります。 私は、およそ 50個の理論モデルの中でも、活動銀河説、隕石衝突説、超新星残骸説が有力そうである事を突き止めました (ちなみに FRB には宇宙人起源説も提唱されていますが、この説も正の相関関係を予言しています)。

この「明るさ-バースト時間」関係は、現代天文学並びに物理学の謎であるダークエネルギーの正体を突き止める上でも非常に重要であると考えられます。 ダークエネルギーの存在は「標準光源」である Ia型超新星爆発を使って、宇宙の距離を正確に測定する事によって発見されました。

FRB の相関関係を用いることで、バースト時間から FRB の本来の明るさを計算することができます。 つまり、Ia型超新星爆発のように FRB を宇宙の「標準光源」として用いる事ができるわけです。

FRB はIa型超新星爆発よりもさらに遠方の距離を測定する事ができるだけでなく、その発生頻度も非常に高いと考えられています。 Square Kilometre Array (SKA) をはじめとする将来の次世代望遠鏡群による FRB 観測をシミュレーションした結果、FRB はダークエネルギーの時間変動に対して強い制限を与えると期待されます (図1 右)。 このダークエネルギーの時間変動は、ダークエネルギーの正体を突き止める上で最も重要な課題の一つです。

これらの内容は英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) 、並びに英国一般科学雑誌 New Scientist に掲載されました。

Tetsuya Hashimoto, Tomotsugu Goto, Ting-Wen Wang, Seong Jin Kim, Yi-Han Wu, and Chien-Chang Ho, 'Luminosity-duration relation of fast radio bursts' , Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, (2019).

The publication was featured by New Scientist, 'Mysterious signals from space could teach us how dark energy works' , 8 Aug. (2019)

橋本哲也
橋本哲也
助教 (NCHU)